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名著×脳内メーカー

脳内メーカーで読む名著 第1回『羅生門』

〜 頭の中をのぞけば、名著はもっと面白い 〜

🐾 はじめに 〜うそこ動物園の、ないしょの夜〜

うそこ動物園が寝しずまった、まよなかのこと。

こっそりオリを抜け出した3匹が、今夜もうそこ大学の門をくぐります。行き先は「脳内メーカー化学部」。人間という、ふしぎな生きものの「頭の中」を教えてもらえる、動物たちのひみつの教室です。

案内役は、もの知りな教授。生徒は、こわがりなプレソコ(プレーリードッグ)、するどいクロソコ(黒豹)、マイペースなレサソコ(レッサーパンダ)の3匹。

プレソコ プレソコ
きょうは、なにを教えてくれるの?
クロソコ クロソコ
……なんだか、こわい予感がするわ
レサソコ レサソコ
ぼく、おなかすいた
教授 教授
ふふ。今夜は、1000年以上むかしの人間の心をのぞいてみましょう。芥川龍之介の『羅生門』——ある男の心が、たった一言で塗りかわってしまう物語です

📖 これって、どんなお話?

本編に入る前に、ざっくり世界観をつかんでおきましょう。

時代は、平安時代の京都。といっても、雅な貴族の世界ではありません。地震・台風・火事・ききんが立てつづけに起き、街はすっかり荒れはてています。

羅生門は、その京都の正門。かつては立派だったのに、今では修理する人もなく、ボロボロ。2階には引き取り手のない死体が捨てられ、だれも近づかない不気味な場所になっています。

登場するのは、たったの2人。

👤 登場人物紹介

・下人(げにん)- 主人公
身分の低い使用人の男。つい最近クビになり、行くあてもお金もない。「飢え死にするか、盗人になるか」で悩んでいる、まだ良心の残る若者。

・老婆(ろうば)
門の2階で、死体の髪を1本1本抜いていた不気味なおばあさん。抜いた髪でカツラを作って売り、生きるつもり。「生きるためには仕方ない」が信条。
プレソコ プレソコ
し、死体の髪を……ぬく!? ひぃぃぃっ!
クロソコ クロソコ
落ちついて、プレソコ。……でも、この老婆、ただ者じゃなさそうね
レサソコ レサソコ
カツラって、あったかいのかな
教授 教授
レサソコくん、そこは今、大事ではないですね。……では、下人の心の中をのぞいてみましょう

🧠 本編 〜下人の心が、塗りかわるまで〜

ここからが、この物語の心臓部。下人の「頭の中」を、脳内メーカーで3回のぞいていきます。心が、どう動いていくか——よく見ていてください。

第1幕:迷う下人

クビになった下人は、雨やどりに羅生門へやってきました。あてもなく、こう考えています。「このままでは飢え死にする。かといって、盗人になる勇気も出ない……」

中央に大きく「迷」。すみっこに、小さく「盗」
※中央に大きく「迷」。すみっこに、小さく「盗」
プレソコ プレソコ
うわぁ、頭の中ぐちゃぐちゃだ……"迷"がまん中にデーンって
クロソコ クロソコ
注目は、すみっこの"盗"よ。ちゃんと小さいでしょ。この子、まだ踏みとどまってる
レサソコ レサソコ
"雨"もあるね。ぬれるの、いやだもんね
教授 教授
レサソコくん、それは物理的な雨ですね。……でも、いい着眼点です。この"盗"の大きさを、覚えておいてください

第2幕:怒る下人

下人が門の2階にのぼると——いました。老婆が、死体の髪を1本1本、抜いているのです! その光景を見た下人の心に、はげしい正義感がわきあがります。

「迷」が消え、中央に「正義」。でも、すみに「盗」はまだ残っている
※「迷」が消え、中央に「正義」。でも、すみに「盗」はまだ残っている
プレソコ プレソコ
あっ、"迷"が消えて"正義"に! さっきと別人みたい!
クロソコ クロソコ
わかりやすい子よね。でも見て。すみの"盗"は、まだ消えてない。……これ、フラグよ
レサソコ レサソコ
せいぎのみかただ! がんばれー!
教授 教授
レサソコくん、応援したくなる気持ちはわかります。わかりますが……もう少し、見ていましょう

第3幕:塗りかわる下人

下人に取り押さえられた老婆は、必死に言い訳します。「この女も、生前は悪いことをしていた。だから、私が髪を抜いても許されるはず。生きるためだもの、仕方ないだろう?」——その一言を聞いた瞬間、下人の心が、音を立てて塗りかわります。

ついに「盗」が中央を占領。「正義」は消え、「迷」がほんの少しだけ残る
※ついに「盗」が中央を占領。「正義」は消え、「迷」がほんの少しだけ残る
プレソコ プレソコ
ひぃぃぃっ!! "盗"がまん中に来ちゃった! すみっこにいたのに、育っちゃったよぉ!
クロソコ クロソコ
……言ったでしょ、フラグって。"迷"って悩んでたからこそ、言い訳を一個もらった瞬間に、くずれた。たった一言で、背中を押されたのよ
レサソコ レサソコ
あれ? でも、はじっこに、ちょびっとだけ"迷"が残ってるよ?
クロソコ クロソコ
……するどいじゃない、レサソコ。そう、完全にゼロじゃない。その"ちょびっと"が、人間なのよ
教授 教授
……いい読みです。作者はきっと、そこまで見せたかったのでしょうね

✍️ ここ、実際の芥川の文章です

あらすじだと「心が塗りかわった」の一言ですが、芥川龍之介はこの瞬間を、みごとな一文で描いています。老婆の話を聞いたあとの、下人の変化した心を——

「「饑死をするか盗人になるかに、迷はなかつたばかりではない。その時のこの男の心もちからは、饑死などと云ふ事は、殆、考へる事さへ出来ない位、意識の外に追ひ出されてゐた。」」

さっきまで「飢え死にか盗人か」であんなに迷っていたのに、その選択肢そのものが、心の外へ追い出されてしまった——脳内画像で「迷」が中央から消えたのは、まさにこの一文のことだったんですね。

クロソコ クロソコ
……原文で読むと、ゾクッとくるわね
教授 教授
1000年後のあなたたちを、ゾクッとさせる。それが名文の力です

🌙 そして、だれも知らない

物語は、こう結ばれます。下人は老婆の着物をはぎ取り、夜の闇へと消えていきました。そして——

教授 教授
さあ、最後の一文です。"下人の行方は、誰も知らない"
プレソコ プレソコ
えっ、そこで終わり!? どこ行ったの!?
教授 教授
だれも知りません。1000年以上、だれも
クロソコ クロソコ
……うまいわね。読者に丸投げして、ずーっと考えさせる気だわ
レサソコ レサソコ
ぼくは、着物を洗ってから売ってほしいなって思う
教授 教授
レサソコくん、あなたはいつも自由ですね

すみっこの小さな「盗」が、たった一言をきっかけに育ち、心のまん中を乗っ取ってしまう。でも、ほんの少しだけ「迷」が残っている。芥川龍之介が『羅生門』で見せたかったのは、たぶん、この「人の心のもろさと、ほんのひとかけらの人間らしさ」だったのかもしれません。

……あらすじで読むより、ちょっと解像度、上がりませんでしたか?


📚 原文も読んでみる?

『羅生門』は、原稿用紙にしてわずか十数枚の短編です。「ちょっと本物も読んでみようかな」と思ったら、ぜひ。青空文庫で全文が無料で読めます。

プレソコ プレソコ
ぼく、本物にもチャレンジしてみる!
クロソコ クロソコ
いい心がけね。じゃあ次回も、抜け出す?
レサソコ レサソコ
次は、あったかいお話がいいなぁ
教授 教授
さて、どうでしょうか。ふふ。……では、また次の夜に

📱 もっと脳内メーカーで遊ぶ

気になった名前や言葉を、あなたの手で脳内メーカーにかけることができます。公式アプリなら、いつでもどこでも「頭の中」をのぞけます。


次回予告:「脳内メーカーで読む名著」第2回は——さて、どの本の頭の中をのぞきましょうか?*

本記事で引用した『羅生門』本文は、芥川龍之介(1927年没)の著作で、著作権保護期間が満了したパブリックドメイン作品です。原文テキストは青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)に収録されているものを参照しています。