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『脳内メーカーで読む名著 第2回『坊っちゃん』』の脳内メーカー解説は準備中です

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名著×脳内メーカー

脳内メーカーで読む名著 第2回『坊っちゃん』

〜 頭の中をのぞけば、名著はもっと面白い 〜

🐾 はじめに 〜今夜は、笑える話です〜

うそこ動物園が寝しずまった、まよなかのこと。

今夜もこっそりオリを抜け出した3匹が、うそこ大学の門をくぐります。行き先はもちろん「脳内メーカー化学部」。人間という、ふしぎな生きものの「頭の中」を教えてもらえる、ひみつの教室です。

プレソコ プレソコ
きょうは……こわくない話がいい
教授 教授
ふふ。ご安心ください。今夜は夏目漱石の『坊っちゃん』。とびきり愉快な、笑える物語です
プレソコ プレソコ
やったー!
クロソコ クロソコ
……先生。いま、ちょっと目が泳がなかった?
教授 教授
……さあ、はじめましょうか
レサソコ レサソコ
ぼく、こんやはおかしをもってきたよ

📖 これって、どんなお話?

前回の『羅生門』は、平安時代の京都でした。今回はぐっと近づいて、明治時代のお話です。

東京生まれのまっすぐな青年が、四国の田舎町の中学校に、数学の先生としてやってきます。ところが待っていたのは、いたずらばかりの生徒たちと、クセの強すぎる先生たち。腹を立てては突っ走り、損ばかりしながら、それでも曲がったことだけは絶対に許せない——そんな男の、痛快な奮闘記です。

語り口は主人公の一人称。ポンポン跳ねるような江戸っ子口調で、明治の小説なのに驚くほど読みやすい。声に出して読みたくなるテンポの良さが、この作品の魅力のひとつです。

登場するのは、こんな人たち。

クロソコ クロソコ
"赤シャツ"って、あだ名?
教授 教授
ええ。坊っちゃんが勝手につけたあだ名です。この物語、主要人物のほとんどが本名で呼ばれません
レサソコ レサソコ
うそこどうぶつえんといっしょだ
教授 教授
……そうですね。名づけが雑なところは、よく似ています

🧠 第1幕 〜坊っちゃんという男、清というひと〜

物語は、主人公の生い立ちから始まります。

坊っちゃんは、とにかく無鉄砲。二階から飛び降りて腰を抜かしたり、ナイフで自分の指を切ってみせたり。おかげで親からは「こいつはどうせろくな者にならない」と見放され、兄からも嫌われて育ちました。

そんな彼の頭の中は、こうです。

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┌─────────────────────┐
│  大      損気      無   │
│      ┏━━━━━┓        │
│  暴   ┃  損  ┃   痛    │
│      ┗━━━━━┛        │
│  跳         清(小)    │
└─────────────────────┘
※中央に大きく「損」。すみっこに、小さく「清」
プレソコ プレソコ
まん中が"損"!? そんな脳内ある!?
教授 教授
あるんです。しかもこれ、作者が自分で書いています。この物語の一行目が、まさにそれなので
クロソコ クロソコ
……前回の教訓を活かすなら、見るべきはすみっこよね。ほら、小さく"清"がいる
レサソコ レサソコ
きよ? だれ?
教授 教授
よくぞ聞いてくれました。……この物語で、いちばん大事な人です

✍️ ここ、実際の漱石の文章です

『坊っちゃん』は、この一文から始まります。

「「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。」」

たったこれだけで、主人公がどんな男か全部わかってしまう。名文というのは、こういうものを言うのでしょうね。

クロソコ クロソコ
一行目で自己紹介が完了してるじゃない
教授 教授
ええ。しかも"損ばかりしている"と言いながら、まったく反省していないのがこの男の良いところです

そして、清

家族の誰からも期待されなかった坊っちゃんを、ただ一人かわいがってくれた人がいました。実家に長く仕えていた老女中の、清です。

清は、坊っちゃんが何をしでかしても叱りません。それどころか「あなたはまっすぐで良いご気性だ」「将来きっと立派になる」と、本気で信じていました。誰も見ていないところで菓子を買ってきてくれたり、こっそりお金を握らせてくれたり。

その清の頭の中が、これです。

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┌─────────────────────┐
│ 坊っちゃん 坊っちゃん 坊っちゃん │
│      ┏━━━━━┓        │
│ 坊っちゃん ┃坊っちゃん┃ 坊っちゃん │
│      ┗━━━━━┛        │
│ 坊っちゃん 坊っちゃん 坊っちゃん │
└─────────────────────┘
※脳内、すべて「坊っちゃん」
プレソコ プレソコ
……え
クロソコ クロソコ
……
レサソコ レサソコ
ぜんぶ、坊っちゃん
教授 教授
ええ。ぜんぶ、坊っちゃんです
プレソコ プレソコ
ほかに、なにも入ってないの!?
教授 教授
入っていません。家族にも疎まれたあの子を、ただ一人まるごと信じ続けた人ですから
クロソコ クロソコ
……こんなの、笑えないじゃない

やがて親も兄も家を出て、坊っちゃんは学校を卒業し、四国の中学校へ数学教師として赴任することになります。清とは、いったんお別れ。

これが、物語の出発点です。


🧠 第2幕 〜赤シャツの、ふたつの脳内〜

赴任先の中学校には、クセの強い先生たちが揃っていました。中でも要注意なのが、教頭の赤シャツです。

赤シャツは、いつも上品な言葉づかいで、文学や教養の話をします。生徒思いの立派な教育者——少なくとも、表向きは。

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┌─────────────────────┐
│  品      文学      高   │
│      ┏━━━━━┓        │
│  徳   ┃ 教養 ┃   愛    │
│      ┗━━━━━┛        │
│  雅         生徒(多)  │
└─────────────────────┘
※中央に大きく「教養」。周囲に「品格」「文学」「生徒のため」
プレソコ プレソコ
わぁ、りっぱな先生だ!
レサソコ レサソコ
せんせいのおてほんみたいだね
クロソコ クロソコ
……先生。これ、なにか裏があるでしょ
教授 教授
……よく気づきましたね。実はもう1枚、あるんです

ところが。この赤シャツ、裏では大変なことをやっていました。

気の弱い英語教師・うらなりには、婚約者がいました。その婚約者を、赤シャツが横から奪おうとしていたのです。しかも邪魔なうらなりを、遠くの町へ左遷させようと画策までする。そのうえ、自分に都合の悪い山嵐を悪者に仕立て上げ、坊っちゃんに吹き込んで仲違いさせようとまでします。

同じ人物の、腹の中がこちらです。

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┌─────────────────────┐
│  算      出世      体   │
│      ┏━━━━━┓        │
│  欲   ┃ 保身 ┃   偽    │
│      ┗━━━━━┛        │
│  謀         陥れる     │
└─────────────────────┘
※中央に大きく「保身」。周囲に「打算」「出世」「体裁」「陥れる」
プレソコ プレソコ
ひぃぃぃっ!! さっきと別人!!
クロソコ クロソコ
別人じゃないわ。**同じ人の、同じ時間の頭の中**よ。表の顔をやりながら、こっちも同時に回してるの
プレソコ プレソコ
そっちのほうがこわいよぉ!
レサソコ レサソコ
ねえ、なんで赤いシャツなんだろう
教授 教授
目立ちたいからでしょうね。……レサソコくん、それ、案外いい質問ですよ

前回の下人は、心が「迷」から「盗」へと塗りかわっていきました。赤シャツは違います。塗りかわりません。最初から2枚を使い分けている。どちらがより怖いかは、読む人によって意見が分かれるところです。


🧠 第3幕 〜山嵐と、一銭五厘〜

坊っちゃんには、もう一人気になる同僚がいました。数学主任の山嵐です。

いがぐり頭のごつい男で、態度も声も大きい。最初、坊っちゃんは彼のことを「乱暴な奴だ」と思っていました。しかも赤シャツに「山嵐には気をつけたほうがいい」と吹き込まれ、すっかり疑ってしまいます。

ここで問題になったのが、一銭五厘でした。

赴任してすぐの頃、山嵐は坊っちゃんに氷水をおごってやったことがありました。その代金が、一銭五厘。今でいえば数百円ほどの、ささやかな金額です。

ところが山嵐を疑い始めた坊っちゃんは、こう考えます。「嫌いな奴に恩を受けたままではいられない」。そして一銭五厘を、山嵐の机の上にドンと置いたのです。

山嵐は、受け取りませんでした。その金は、机の上に置かれたまま——。

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┌─────────────────────┐
│  骨      気概      剛   │
│      ┏━━━━━┓        │
│  怒   ┃ 意地 ┃   正    │
│      ┗━━━━━┛        │
│  直      一銭五厘(小) │
└─────────────────────┘
※中央に大きく「意地」。すみっこに、小さく「一銭五厘」
レサソコ レサソコ
ねえ、なんで"一銭五厘"が入ってるの?
教授 教授
氷水をおごってもらった代金です。仲違いした坊っちゃんが、机に叩きつけて返した
プレソコ プレソコ
た、たった数百円くらい……?
クロソコ クロソコ
そう。その数百円が、二人の頭から離れない。馬鹿みたいでしょ。**でもこれが意地よ**
レサソコ レサソコ
ぼく、氷水たべたい
教授 教授
……レサソコくん、この場面はもう少しだけ我慢してください

やがて坊っちゃんは、赤シャツの正体に気づきます。山嵐が悪者にされていたのは、赤シャツの工作だった。誤解が解けた二人は、手を組みます。

そして、二人は張り込みを決行。赤シャツと野だいこの悪事の現場をついに押さえ、正面から殴りつけました。あとくされなく辞表を叩きつけ、坊っちゃんは東京へ帰ります。

プレソコ プレソコ
やった! スカッとした!
レサソコ レサソコ
なぐっちゃったけど、だいじょうぶなの?
教授 教授
……大丈夫ではありません。二人とも職を失いました
クロソコ クロソコ
それでもやるのよ。**損だとわかっていて、やる**。それがこの物語の主人公だもの

🧠 第4幕 〜そして、清〜

東京へ戻った坊っちゃんは、小さな職を見つけ、清と一緒に暮らし始めます。四国での騒動を経て、ようやく手に入れた穏やかな日々。

ところが清は、まもなく病気にかかり、あっけなく亡くなってしまいます。

死ぬ前の日、清は坊っちゃんにこう言い残しました。「自分が死んだら、坊っちゃんのお寺へ埋めてください。お墓の中で、坊っちゃんが来るのを楽しみに待っております」。

物語の最後、坊っちゃんの頭の中は、こうなっています。

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┌─────────────────────┐
│  愛      慕情      絆   │
│      ┏━━━━━┓        │
│  恩   ┃  清  ┃   涙    │
│      ┗━━━━━┛        │
│  損(小)   無鉄砲(小)│
└─────────────────────┘
※中央に大きく「清」。「損」も「無鉄砲」も、すみっこに小さく
プレソコ プレソコ
あ……"損"が、ちっちゃくなってる
クロソコ クロソコ
そう。**入れ替わったのよ**。第1幕ですみっこにいた"清"が、まん中に来た
レサソコ レサソコ
まえのおはなしと、ぎゃくだね。あのときは、わるいのがまん中にきちゃったけど
教授 教授
……レサソコくん
クロソコ クロソコ
……ほんと、たまに核心を突くわよね、あんた
教授 教授
そのとおりです。同じ"すみっこが中央に来る"でも、こちらは正反対のものが来た。**人が、いちばん大切なものに気づく**という変化です

✍️ ここ、実際の漱石の文章です

あれだけ賑やかで愉快だった物語が、最後の数行で急に静かになります。

「「だから清の墓は小日向の養源寺にある。」」

これが、『坊っちゃん』のいちばん最後の一文です。

大立ち回りも、天誅も、江戸っ子の啖呵も、全部終わったあとに残ったのは、たったこれだけ。清は、坊っちゃんの家の墓に入りました。ずっと家族に疎まれてきたあの子が、家族ではなかったこの人と、同じ墓に眠っている。

プレソコ プレソコ
……ぼく、なんで泣いてるんだろう
クロソコ クロソコ
……
レサソコ レサソコ
ぼくも、なみだでてきた
教授 教授
はじめに"笑える話です"と言いましたね。嘘ではありません。でも、笑って読んだあとに、これが来る。……漱石は、ずるいんです

痛快なコメディだと思って読み進めた先に、この一文が待っている。この落差こそが、『坊っちゃん』が100年以上読み継がれている理由なのかもしれません。

……あらすじで読むより、ちょっと解像度、上がりませんでしたか?


📚 原文も読んでみる?

『坊っちゃん』は、長編といっても文庫本で200ページほど。しかもテンポが抜群に良いので、明治の小説とは思えないくらいスラスラ読めます。「ちょっと本物も読んでみようかな」と思ったら、ぜひ。青空文庫で全文が無料で読めます。

プレソコ プレソコ
ぼく、本物にもチャレンジしてみる!
クロソコ クロソコ
前回もそう言ってたわね。今回はちゃんと読みなさいよ
レサソコ レサソコ
ぼくは、氷水をたべながらよむ
教授 教授
それは、なかなか正しい読み方かもしれませんね。……では、また次の夜に

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次回予告:「脳内メーカーで読む名著」第3回は——さて、どの本の頭の中をのぞきましょうか?*

本記事で引用した『坊っちゃん』本文は、夏目漱石(1916年没)の著作で、著作権保護期間が満了したパブリックドメイン作品です。原文テキストは青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)に収録されているものを参照しています。